登攀チーム ひも野郎

傾山二つ坊主南壁を登るために集まった変わり者たちの記録

市房山 境谷 遡行

市房山 境谷 遡行 2021年7月29日

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九州を代表する多くの名渓を有する市房山。その東面に深く切れ込んだ境谷は、多数の巨瀑を有し、源頭部には桃源郷と形容されるほど美しい草原がある。まさに九州きっての名渓である。

 

本来は北アルプス錫杖岳でクライミング三昧の予定だったのだが、台風の影響から、中央の天気が芳しくない。やむなく遠征は取りやめ、代わりに市房山の名渓を2本登る計画を立てた。結果としてこれが大正解。透き通る夏空の下、市房山の美しい渓谷を存分に堪能することができた。

 

1本目は前述の境谷。源頭部で一泊の予定で早朝より遡行を開始した。

 

入渓点は8m程の滝になっており、駐車スペースの対岸。一ツ瀬川本流を渡渉しての入渓となる。幸い水量は少なめで、歩いて渡渉できた。入渓点の滝は右の岩場から巻いて境谷に入る。入渓後程なくして釜を持つ4mほどの小滝が現れる。早速ひと泳ぎして水線の左から超えた。

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泳いで冷えた体が温まる間もなく、今度は右手より大滝CS25mが姿を現し、早速の大高巻きを強いられる。両岸の傾斜も強く高巻きとはいえ、ちょっとした岩登り。慎重に巻き終え、どうにか谷に戻って遡行再開。しかし小滝を2.3超えたらまたすぐに50m大滝。もちろん直登不可。再び大高巻き。結果として本谷分かれまで大小5回程の高巻きで大幅に時間を消費した。

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高巻きには苦戦したが、渓相は文句なく一級品。境谷の下部は黒っぽいホルンフェルスの岩盤を大量の水が削り出した神秘的なゴルジュと大小多数の滝が連続し見どころは尽きない。谷の中盤は黒い岩盤の上に、白い花崗岩のボルダーが現れる。黒と白のコントラストが美しい。そして徐々に花崗岩の割合が増え、明るい谷へと姿を変えていく。市房山の構成が良くわかる面白い谷である。

 

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簡単な滝はどんどん登り、ところどころザイルを結び、いくつ滝を超えただろうか。辺りはいつしか花崗岩のスラブに代わり、さながら大崩山系の谷のような明るい雰囲気になっていた。標高は1100mを超え、そろそろ疲れを感じてきたその時、ゴーロの先に花崗岩の一枚岩の表面を洗うように薄く流れる巨大なナメ滝が現れる。傾斜は強くないが、手掛かりは少ない。プロテクションもとれそうにないので、乾いたラインを選び慎重にフリーで登っていく。難しくはないが、失敗の許されないスラブ登り。延々80mはなかなか痺れた。

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どうにか登りきり、すこし進むと、谷は急速に様相を変えてくる。左岸の低木帯の合間に明るい緑色の草地がぽつぽつと現れる。かと思えば、程なくして木々は疎らになり、目の前には一面の草原が広がったのだ。草原のそこかしこに黒い巨石が点在している。荒々しい谷の終わりに、こんなにも優しく、美しい場所があろうとは・・。

長い遡行の心地よい疲労感も相まって、まさに天国にでも到達したような気分だった。相棒などは「最後の滝で死んでないよね?」と何度も繰り返すほど。

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この桃源郷での一夜はまさに至福の時間だった。

次の日は二ツ岩ピークまで足を運び、南部九州を見渡す大展望と、脊梁の奥深い自然を存分に堪能した。

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下山の藪漕ぎとルートファインディングは少々骨だったがそれもまたいいスパイスだ。
境谷は文句なく九州を代表する名渓だろう。「いつの日か必ずまた来よう。」相棒とそう約束し、今回の遡行は終了。

明日の山之口谷へと続く。。

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