登攀チーム ひも野郎

傾山二つ坊主南壁を登るために集まった変わり者たちの記録

比叡山 1峰Bピーク ムササビファミリールート 登攀

比叡山】 1峰Bピーク ムササビファミリールート 登攀 2021年4月27日

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比叡山、1峰Bピーク北壁にムササビファミリールートというルートがある。その可愛らしい名前とは裏腹に、九州では数少ない本格トラッドのマルチピッチルートだ。

兼ねてより素晴らしいルートだと伺っていたのだが、トラッドクライミングの実力をつけなければ痛い目をみるのは明白。そこで、この冬はトラッドの聖地三倉岳でクラック修行に励んだという流れである。冬を超え、何とか登るイメージができてきた。気候も安定してきた今はマルチベストシーズン。トラッド初心者の私たちには大冒険になること明白だが行ってみよう。いざ登攀開始だ!

 

1P目
泥とブッシュと浮石で覆われたコーナークラックを登る。泥や草を落しながらの登攀でチョークバックの中に大量の土が流れ込み、開始早々にややテンションダウン。どうも過去の記録にはあったコーナーの左を構成する岩盤が大きくはがれているようだ。プロテクションに心配があったため、途中で右のフェイスをトラバースし、カンテを回り込む。するとややブッシュがうるさいが、しっかりしたクラックがまっすぐ上へ伸びていた。このクラックが無くなる辺りで、ピッチを切った。1P目はカムで終了点を作る。

 

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2P目
クラックが消え、ピナクルの右側のフェイスをダイナミックに登る。途中とても使い物にならない錆びたハーケンが2本。恐らく初登時のものだろう。錆びたハーケンに、開拓者の魂が打ち込まれているようでなんだか身が引き締まる。ガバをつないで気持ちよく登りあがると、突然右奥にダブルクラックと2P目終了点が見えた。少し登りすぎたようだ。若干クライムダウンしてカンテ右上の終了点へ上がり込む。

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3P目
ダブルクラックからチムニーを2つつないで、最後は左のカンテへトラバース。クラック好きにはたまらないこのルート一番の花形ピッチだ。ここの攻略法を考えながら見上げているとき、突然チムニーの中から大きなモフモフした生物が顔を出す。尻尾を入れると80cmはありそうな大きなムササビだ!軽くこっちを見て、少し驚いた素振りをみせながら、これから我々が登るチムニーをいとも簡単に駆け上がってしまった。うらやましい登攀力。いや飛んのかい!(笑)

 


一瞬の出来事で写真が撮れなかったのが悔やまれるが、ムササビファミリールートでムササビに出会えた幸運にしばし興奮した。これは吉兆!さあ登ろう。

 

出だしのダブルクラックはさほど難しくないが、最初のチムニーはかぶり気味で奮闘的。相方曰く、矢筈のもぐらたたきより少し悪いらしい。この手のクライミングを三倉で経験しておいてよかった。最後のトラバースもなかなかバランシ―かつパワフルで刺激的だった。カンテを回り込むと上へと伸びる綺麗なクラックが続いていた。このクラックを登ったところに終了点があった。それにしても先の見えないカンテの向こうへ、まともなプロテクションもなく突っ込む。その先にクラックがあるなど知る由もない初登者は、一体どれだけの勇気がいるのだろうか。その心意気に感動すら覚えた。

 

 

4P目
右上するクラックから岩盤状のフェイスを登る。このピッチはボルトが3本打たれていた。2,3手マントル乗り込み系のムーブがあって、ラストは薄被りの岩をダイナミックなムーブで超え、終了点のテラスへと出る。3P目と対照的にフェイス系のムーブが続く現代的なピッチだ。

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5P目
左のコーナークラックを直上。ほぼ垂直に立っているコーナーにステミングを駆使して登る。クラックは細くフィンガーサイズ。当然プロテクションもスモールカムが2~3か所とれる程度。コーナー上部。細いポケット状クラックに中指をひっかけ、抜けないよう祈りながらステミングの足を上げる瞬間は冷や汗ものだった。

 

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6P目
最終ピッチ。長い左トラバースからカンテを超え、リッジライン沿いにBピークを目指す。
このトラバースがまた痺れた。5P目終了点から、5m程上り、バンド沿いにトラバースするのだが、手のホールドが小さく遠い。足ホールドも慎重に選ばないと動けなくなりそうだ。心臓をバクバクさせながら左へロープを延ばす。細いクラックに0.4番のカムを差し込み、左上のカンテへ向け左上。回り込むとしっかりクラックがあり、一安心。あとは傾斜の落ちたリッジラインをBピークへと駆け上がる。

 

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ピークから見下ろすとAピークが遥か下に見える。正面には矢筈岳のデカイ岩壁が迫る。いつものAピークから見る景色より高度感がある。相棒をビレイしながら、絶景と満足感を存分に堪能させていただいた。


オールフリーオンサイト!とはいかなかったが、この濃厚なトラッドルートを全ピッチフリーで突破できたことは素直に喜びたい。ハードなルートに付き合ってくれた相棒にありがとう!

ムササビファミリールートは数ある比叡山のルート中でも、特に異彩を放っていると思う。身近にこんなにも素晴らしいルートを開いてくれた開拓者に、そして、大変な労力をかけ、再整備してくれた方々に心から感謝したい。

END