登攀チーム ひも野郎

傾山二つ坊主南壁を登るために集まった変わり者たちの記録

大崩山 小積ダキ中央陵 登攀 2020年9月19日

【大崩山】 小積ダキ 中央陵 登攀 2020年9月19日

 

小積ダキ。大崩山の東面に鎮座する巨大な花崗岩の岩峰。ダキとはこの地方の方言で岩壁の意。どっしりと膨らんだ裾野からピークまでの高さは優に300mを超す。この地に無数に点在する岩峰の中でも一際目を引くその佇まいは、クライマーでなくとも思わず見入ってしまう。

 
この勇壮な岩壁をクライミングするなど、数年前の自分では想像もつかないことだった。きっかけをくれたのは、岩登り初心者の私に、クライミングのいろはを熱心に教えてくれたA兄貴。いつぞやの比叡クライミングの帰り、兄貴がクライミングを始めたのは、小積ダキを登りたかったからと聞いた。そして、いつか一緒に登ろうと誘ってくれたのだ。その瞬間から小積ダキは私にとっても最大目標となった。
 
 
  小積ダキを目指して準備を進め、初めてとりついたのが約1年前。しかし、壁の中頃で予定時間を大幅にオーバーし敗退を決める。力不足を痛感した。しかし、「この壁を登りたい」という気持ちは一段と大きくなった。2回目のトライは5月の日の長い時期にやろうと決め、クライミングに打ち込む。必要な体力もつけ、作戦も練り直し、いざ挑もうとした矢先、コロナの渦に巻き込まれ、5月は延期。登りたい気持ちは抑えられない程強くなる。そして、待つこと4か月。ようやく2度目のトライを決行する。
 
 
 一週間前。天気予報は雨。しかし移ろいやすい秋の天気。毎日コロコロ変わる天気予報に一喜一憂。一度は延期を決めるが、前日の夕方、兄貴から「ダメ元で行ってみよう」とのラインを受け取り、家を飛び出した。祝子川登山口についたのは、23:30。車でひと眠りして、03:30より行動を開始する。
 
 空は曇っているが、1つ2つ星も見える。登山道も思った程濡れていない。期待に胸を膨らませ、分かりにくいアプローチを慎重に歩く。東の空がうっすら赤らんできた05:30、狭いガリーになった小積ダキ中央陵の取り付きに到着した。壁は湿っているが登れないことはなさそうだ。一昨日のボルタリングの疲れも残るが、テンションはうなぎ登り。意気揚々と兄貴とロープを結び、いざ登攀開始!
 
 



 

1~3P
はボルトラダーの人口登攀。無限のアブミの架け替えに時間と体力を消耗するセクションだ。前回の反省を生かし、セカンドはユマールで時短時短。
 
4P
フリーで気持ちよく登れるセクション。前回は悪く感じた上段のクラックも今回は苦も無く突破できた。中央バンド到着は前回より2時間も早い。これはいける!

 
中央バンド
小休止。一度ロープとガチャを整理し、軽くパンを食べ、岩陰で軽量化。
 
5P
後半戦。ここからが、中央陵の真骨頂。まずは全身を使ってチムニーを登る。抜け口が少し悪い。ちなみに、プロテクションは抜け口の手前に今一つ信用できないカムが一発のみ。恐ろしい。セカンドはザックを背負い登る。これがなかなか苦戦した。岩に擦れて、ザックに穴が開く。まぁ別に気にしないけど?

6P
スクイーズチムニー。前回は兄貴が登ったので、今回は私が行かせてもらう。半身をねじ込みズリズリ。予想よりスムーズに登れ、思わずにっこり。竜頭線のクラック修行が生きている!
 
7P
ここから初めてのセクション。ブッシュから下の窓を通過。トンネルをくぐると左上するクラックが一筋。初登者はきっと「おおっ」と声を上げたことだろう。

8P
左上するクラックから凹隔を目指す。当初サイのツノと呼ばれる特徴的な岩角まで登る予定だったが、カムが不足し、一旦凹隔手前でピッチを切る。
 
9P
凹隔からサイのツノ(上の窓)へ。ここで私がやらかす。出だしに1番のカムを決め、少しかぶり気味のクラックに右手を突っ込み、左手で左上のフレークをつかむ。しかし、力を入れるとはがれてしまいそうなフレークに思い切ったムーブが出せず、じわじわと足を上げていくしかない。もう一つカムを取りたいがバランスが悪い。一段上に乗り込みたいと体を上げた瞬間、ステミングしていた左足が滑る。あろうことか、フォールしてしまったのだ!出だしの1番が効いて2m程で止まり、胸をなでおろす。生きてた~。ビレイをしていた兄貴は寿命が縮む思いだっただろう。申し訳ない。止めていただき、ありがとうございました!
気を取り直して、ここからは安全第一。フリーはあきらめ、カムエイドで突破。上の窓到着。



10P
右にアブミトラバースして、凹隔に潜り込む。ここがまた悪い。左の壁がボロボロとはがれるので力は入れられないし、奥のクラックは予想より広く、4番しか決まらない。1つしかない4番と錆びたリングボルトでごまかしながらずり上がる。終了点手前のポケットに1番をねじ込み何とか突破できた。
 
11P
スラブを右にトラバースして左上のコーナークラックを登る。出だしのスラブは簡単だが、プロテクションはやっぱり錆さびのリングボルト。墜落荷重でボルトが吹っ飛ぶイメージが鮮明に頭に浮かぶ。恐ろしい。慎重にムーブを出し、トラバースから左上。恐ろしいが一番痺れた印象的なセクションだったかもしれない。コーナークラックは真下から見ると結構かぶって見える。クラックはフレア気味でカムも決めにくい。フリーでトライしてみたい気もしたが、無理せずカムエイドで。それでもなかなか痺れた。終了点は快適なテラスだが、ピンはやっぱり錆さびのリングボルト。仕方ないので、3つ使って支点構築。兄貴には慎重に登っていただいた。

12P
最終ピッチ。出だしはリングボルトでエイド。上部は緩めのスラブだが、支点がない。クラックもないので、カムも打てない。信用できる支点0のほぼフリーソロを兄貴が慎重に突破する。恐ろしい。フォローの私はお気楽で最後のピッチを楽しむ。いよいよ最後と思うと、もう少し登りたいような、早く緊張から解放されたいような、複雑な気持ちになった。
 
そしてついに、兄貴と二人で小積ダキの頂きに立った。兄貴と握手を交わし、ぎこちない抱擁でにやける。今だけは密を許してもらいたい。何ともいえない脱力感と安堵感と高揚感に包まれ、最高のひと時を過ごした。
 
 存分に余韻を楽しんだら、下山を開始する。この下山がまた長い。しかし、所々で登ってきた小積ダキのラインが見えて満足感をさらに大きくしてくれる。下山しながら辺りを見渡すと、そこら中におもしろそうな岩峰が乱立している。大崩山のポテンシャルはすごい。いつか自分だけのラインを引いてみたい。なんておこがましいことを考えながら足早に下山した。
 敗退から1年。ようやく小積ダキの頂きに立つことができた。こんなに素晴らしい経験をさせてくれた小積ダキと兄貴には感謝しかない。本当にありがとうございました。そして、もっともっと色んな壁登りましょう!!!
次の目標は、、、まだヒミツです。