登攀チーム ひも野郎

傾山二つ坊主南壁を登るために集まった変わり者たちの記録

市房山 境谷 遡行

市房山 境谷 遡行 2021年7月29日

f:id:himoyaro:20221017051952j:image

九州を代表する多くの名渓を有する市房山。その東面に深く切れ込んだ境谷は、多数の巨瀑を有し、源頭部には桃源郷と形容されるほど美しい草原がある。まさに九州きっての名渓である。

 

本来は北アルプス錫杖岳でクライミング三昧の予定だったのだが、台風の影響から、中央の天気が芳しくない。やむなく遠征は取りやめ、代わりに市房山の名渓を2本登る計画を立てた。結果としてこれが大正解。透き通る夏空の下、市房山の美しい渓谷を存分に堪能することができた。

 

1本目は前述の境谷。源頭部で一泊の予定で早朝より遡行を開始した。

 

入渓点は8m程の滝になっており、駐車スペースの対岸。一ツ瀬川本流を渡渉しての入渓となる。幸い水量は少なめで、歩いて渡渉できた。入渓点の滝は右の岩場から巻いて境谷に入る。入渓後程なくして釜を持つ4mほどの小滝が現れる。早速ひと泳ぎして水線の左から超えた。

f:id:himoyaro:20221017052103j:image

泳いで冷えた体が温まる間もなく、今度は右手より大滝CS25mが姿を現し、早速の大高巻きを強いられる。両岸の傾斜も強く高巻きとはいえ、ちょっとした岩登り。慎重に巻き終え、どうにか谷に戻って遡行再開。しかし小滝を2.3超えたらまたすぐに50m大滝。もちろん直登不可。再び大高巻き。結果として本谷分かれまで大小5回程の高巻きで大幅に時間を消費した。

f:id:himoyaro:20221017052030j:image

 

高巻きには苦戦したが、渓相は文句なく一級品。境谷の下部は黒っぽいホルンフェルスの岩盤を大量の水が削り出した神秘的なゴルジュと大小多数の滝が連続し見どころは尽きない。谷の中盤は黒い岩盤の上に、白い花崗岩のボルダーが現れる。黒と白のコントラストが美しい。そして徐々に花崗岩の割合が増え、明るい谷へと姿を変えていく。市房山の構成が良くわかる面白い谷である。

 

f:id:himoyaro:20221017052115j:image

簡単な滝はどんどん登り、ところどころザイルを結び、いくつ滝を超えただろうか。辺りはいつしか花崗岩のスラブに代わり、さながら大崩山系の谷のような明るい雰囲気になっていた。標高は1100mを超え、そろそろ疲れを感じてきたその時、ゴーロの先に花崗岩の一枚岩の表面を洗うように薄く流れる巨大なナメ滝が現れる。傾斜は強くないが、手掛かりは少ない。プロテクションもとれそうにないので、乾いたラインを選び慎重にフリーで登っていく。難しくはないが、失敗の許されないスラブ登り。延々80mはなかなか痺れた。

f:id:himoyaro:20221017052124j:image

どうにか登りきり、すこし進むと、谷は急速に様相を変えてくる。左岸の低木帯の合間に明るい緑色の草地がぽつぽつと現れる。かと思えば、程なくして木々は疎らになり、目の前には一面の草原が広がったのだ。草原のそこかしこに黒い巨石が点在している。荒々しい谷の終わりに、こんなにも優しく、美しい場所があろうとは・・。

長い遡行の心地よい疲労感も相まって、まさに天国にでも到達したような気分だった。相棒などは「最後の滝で死んでないよね?」と何度も繰り返すほど。

f:id:himoyaro:20221017052204j:imagef:id:himoyaro:20221017052231j:image

f:id:himoyaro:20221017052211j:imagef:id:himoyaro:20221017052218j:image

f:id:himoyaro:20221017052457j:image
この桃源郷での一夜はまさに至福の時間だった。

次の日は二ツ岩ピークまで足を運び、南部九州を見渡す大展望と、脊梁の奥深い自然を存分に堪能した。

f:id:himoyaro:20221017052502j:image

下山の藪漕ぎとルートファインディングは少々骨だったがそれもまたいいスパイスだ。
境谷は文句なく九州を代表する名渓だろう。「いつの日か必ずまた来よう。」相棒とそう約束し、今回の遡行は終了。

明日の山之口谷へと続く。。

f:id:himoyaro:20221017052553j:imagef:id:himoyaro:20221017052617j:image

比叡山 1峰Bピーク ムササビファミリールート 登攀

比叡山】 1峰Bピーク ムササビファミリールート 登攀 2021年4月27日

f:id:himoyaro:20221017041227j:image

 

比叡山、1峰Bピーク北壁にムササビファミリールートというルートがある。その可愛らしい名前とは裏腹に、九州では数少ない本格トラッドのマルチピッチルートだ。

兼ねてより素晴らしいルートだと伺っていたのだが、トラッドクライミングの実力をつけなければ痛い目をみるのは明白。そこで、この冬はトラッドの聖地三倉岳でクラック修行に励んだという流れである。冬を超え、何とか登るイメージができてきた。気候も安定してきた今はマルチベストシーズン。トラッド初心者の私たちには大冒険になること明白だが行ってみよう。いざ登攀開始だ!

 

1P目
泥とブッシュと浮石で覆われたコーナークラックを登る。泥や草を落しながらの登攀でチョークバックの中に大量の土が流れ込み、開始早々にややテンションダウン。どうも過去の記録にはあったコーナーの左を構成する岩盤が大きくはがれているようだ。プロテクションに心配があったため、途中で右のフェイスをトラバースし、カンテを回り込む。するとややブッシュがうるさいが、しっかりしたクラックがまっすぐ上へ伸びていた。このクラックが無くなる辺りで、ピッチを切った。1P目はカムで終了点を作る。

 

f:id:himoyaro:20221017041420j:image

2P目
クラックが消え、ピナクルの右側のフェイスをダイナミックに登る。途中とても使い物にならない錆びたハーケンが2本。恐らく初登時のものだろう。錆びたハーケンに、開拓者の魂が打ち込まれているようでなんだか身が引き締まる。ガバをつないで気持ちよく登りあがると、突然右奥にダブルクラックと2P目終了点が見えた。少し登りすぎたようだ。若干クライムダウンしてカンテ右上の終了点へ上がり込む。

f:id:himoyaro:20221017041312j:image

3P目
ダブルクラックからチムニーを2つつないで、最後は左のカンテへトラバース。クラック好きにはたまらないこのルート一番の花形ピッチだ。ここの攻略法を考えながら見上げているとき、突然チムニーの中から大きなモフモフした生物が顔を出す。尻尾を入れると80cmはありそうな大きなムササビだ!軽くこっちを見て、少し驚いた素振りをみせながら、これから我々が登るチムニーをいとも簡単に駆け上がってしまった。うらやましい登攀力。いや飛んのかい!(笑)

 


一瞬の出来事で写真が撮れなかったのが悔やまれるが、ムササビファミリールートでムササビに出会えた幸運にしばし興奮した。これは吉兆!さあ登ろう。

 

出だしのダブルクラックはさほど難しくないが、最初のチムニーはかぶり気味で奮闘的。相方曰く、矢筈のもぐらたたきより少し悪いらしい。この手のクライミングを三倉で経験しておいてよかった。最後のトラバースもなかなかバランシ―かつパワフルで刺激的だった。カンテを回り込むと上へと伸びる綺麗なクラックが続いていた。このクラックを登ったところに終了点があった。それにしても先の見えないカンテの向こうへ、まともなプロテクションもなく突っ込む。その先にクラックがあるなど知る由もない初登者は、一体どれだけの勇気がいるのだろうか。その心意気に感動すら覚えた。

 

 

4P目
右上するクラックから岩盤状のフェイスを登る。このピッチはボルトが3本打たれていた。2,3手マントル乗り込み系のムーブがあって、ラストは薄被りの岩をダイナミックなムーブで超え、終了点のテラスへと出る。3P目と対照的にフェイス系のムーブが続く現代的なピッチだ。

f:id:himoyaro:20221017041450j:image

 

5P目
左のコーナークラックを直上。ほぼ垂直に立っているコーナーにステミングを駆使して登る。クラックは細くフィンガーサイズ。当然プロテクションもスモールカムが2~3か所とれる程度。コーナー上部。細いポケット状クラックに中指をひっかけ、抜けないよう祈りながらステミングの足を上げる瞬間は冷や汗ものだった。

 

f:id:himoyaro:20221017041513j:image

6P目
最終ピッチ。長い左トラバースからカンテを超え、リッジライン沿いにBピークを目指す。
このトラバースがまた痺れた。5P目終了点から、5m程上り、バンド沿いにトラバースするのだが、手のホールドが小さく遠い。足ホールドも慎重に選ばないと動けなくなりそうだ。心臓をバクバクさせながら左へロープを延ばす。細いクラックに0.4番のカムを差し込み、左上のカンテへ向け左上。回り込むとしっかりクラックがあり、一安心。あとは傾斜の落ちたリッジラインをBピークへと駆け上がる。

 

f:id:himoyaro:20221017041547j:image

ピークから見下ろすとAピークが遥か下に見える。正面には矢筈岳のデカイ岩壁が迫る。いつものAピークから見る景色より高度感がある。相棒をビレイしながら、絶景と満足感を存分に堪能させていただいた。


オールフリーオンサイト!とはいかなかったが、この濃厚なトラッドルートを全ピッチフリーで突破できたことは素直に喜びたい。ハードなルートに付き合ってくれた相棒にありがとう!

ムササビファミリールートは数ある比叡山のルート中でも、特に異彩を放っていると思う。身近にこんなにも素晴らしいルートを開いてくれた開拓者に、そして、大変な労力をかけ、再整備してくれた方々に心から感謝したい。

END

比叡山 観音クラック

比叡山 観音クラック 2021年3月21日

f:id:himoyaro:20221017042037j:image

比叡山千畳敷下のトンネルを過ぎ、左を見る。観音様とも、モアイとも取れるチョックストーンがハマった、見るからにワイルドなクラックが千畳敷の展望所へと突き上げている。

決してメジャーでは無いが、初登は近代フリーのレジェンド池田功氏。そして、杉野保さんもロクスノでDIG it として取り上げた知る人ぞ知る名ルートである。

 

その存在は以前より知っていた。しかし、見た目のワイルドさに威圧され、なかなか取り付けなかった。それが今日はなんだか行ける気がして、取り付いてみることを決心した。

 

 

1P目はアプローチピッチということで、少々ナメてかかっていたのだが、苔と浮石、妙にバランシーなトラバースと、マジメにムーブを考えさせられる。
ただトラバース部分は綺麗なボルトも整備されていて、ありがたい。
ビレイステーションはクラックの真下がいいか、落石を避ける右のテラスがいいか、しばらく悩んだが、丁度良い立木もあったので、右のテラスとした。

 

2P目からがメインパートとなる。出だし7m程のワイドは4〜6番のサイズ。ただ、内部はホールドが豊富で、露骨なワイド登りは要求されない。しかし被っているので、威圧感はある。

ワイドが途切れ、左のコーナーに移る。ジャムも利くし、ホールドも豊富なのだが、ワイドから飛び出す時は勇気がいる。

f:id:himoyaro:20221017042107j:image

コーナーを詰めたら、核心のチョックストーン、観音様の頭をのっこす。

 

最後はバックアンドフットから三度チョックストーンを乗り越すと、薄暗いワイドから明るい千畳敷へと飛び出す。

 

覚悟していた、苔も泥もほとんど無く、気持ちよく登ることができた。一ピッチ目のボルトといい、どうやら、最近整備してくれていたようだ。

f:id:himoyaro:20221017042116j:image

爽快なクライミングとは対局にある渋いルートなのだが、威圧感、登りごたえ、突破後の開放感など、味のある内容であった。

擦り傷だらけになりながらフォローしてくれたパートナーに大感謝!ありがとうございました!

 

大崩山 小積ダキ中央陵 登攀 2020年9月19日

【大崩山】 小積ダキ 中央陵 登攀 2020年9月19日

 

小積ダキ。大崩山の東面に鎮座する巨大な花崗岩の岩峰。ダキとはこの地方の方言で岩壁の意。どっしりと膨らんだ裾野からピークまでの高さは優に300mを超す。この地に無数に点在する岩峰の中でも一際目を引くその佇まいは、クライマーでなくとも思わず見入ってしまう。

 
この勇壮な岩壁をクライミングするなど、数年前の自分では想像もつかないことだった。きっかけをくれたのは、岩登り初心者の私に、クライミングのいろはを熱心に教えてくれたA兄貴。いつぞやの比叡クライミングの帰り、兄貴がクライミングを始めたのは、小積ダキを登りたかったからと聞いた。そして、いつか一緒に登ろうと誘ってくれたのだ。その瞬間から小積ダキは私にとっても最大目標となった。
 
 
  小積ダキを目指して準備を進め、初めてとりついたのが約1年前。しかし、壁の中頃で予定時間を大幅にオーバーし敗退を決める。力不足を痛感した。しかし、「この壁を登りたい」という気持ちは一段と大きくなった。2回目のトライは5月の日の長い時期にやろうと決め、クライミングに打ち込む。必要な体力もつけ、作戦も練り直し、いざ挑もうとした矢先、コロナの渦に巻き込まれ、5月は延期。登りたい気持ちは抑えられない程強くなる。そして、待つこと4か月。ようやく2度目のトライを決行する。
 
 
 一週間前。天気予報は雨。しかし移ろいやすい秋の天気。毎日コロコロ変わる天気予報に一喜一憂。一度は延期を決めるが、前日の夕方、兄貴から「ダメ元で行ってみよう」とのラインを受け取り、家を飛び出した。祝子川登山口についたのは、23:30。車でひと眠りして、03:30より行動を開始する。
 
 空は曇っているが、1つ2つ星も見える。登山道も思った程濡れていない。期待に胸を膨らませ、分かりにくいアプローチを慎重に歩く。東の空がうっすら赤らんできた05:30、狭いガリーになった小積ダキ中央陵の取り付きに到着した。壁は湿っているが登れないことはなさそうだ。一昨日のボルタリングの疲れも残るが、テンションはうなぎ登り。意気揚々と兄貴とロープを結び、いざ登攀開始!
 
 



 

1~3P
はボルトラダーの人口登攀。無限のアブミの架け替えに時間と体力を消耗するセクションだ。前回の反省を生かし、セカンドはユマールで時短時短。
 
4P
フリーで気持ちよく登れるセクション。前回は悪く感じた上段のクラックも今回は苦も無く突破できた。中央バンド到着は前回より2時間も早い。これはいける!

 
中央バンド
小休止。一度ロープとガチャを整理し、軽くパンを食べ、岩陰で軽量化。
 
5P
後半戦。ここからが、中央陵の真骨頂。まずは全身を使ってチムニーを登る。抜け口が少し悪い。ちなみに、プロテクションは抜け口の手前に今一つ信用できないカムが一発のみ。恐ろしい。セカンドはザックを背負い登る。これがなかなか苦戦した。岩に擦れて、ザックに穴が開く。まぁ別に気にしないけど?

6P
スクイーズチムニー。前回は兄貴が登ったので、今回は私が行かせてもらう。半身をねじ込みズリズリ。予想よりスムーズに登れ、思わずにっこり。竜頭線のクラック修行が生きている!
 
7P
ここから初めてのセクション。ブッシュから下の窓を通過。トンネルをくぐると左上するクラックが一筋。初登者はきっと「おおっ」と声を上げたことだろう。

8P
左上するクラックから凹隔を目指す。当初サイのツノと呼ばれる特徴的な岩角まで登る予定だったが、カムが不足し、一旦凹隔手前でピッチを切る。
 
9P
凹隔からサイのツノ(上の窓)へ。ここで私がやらかす。出だしに1番のカムを決め、少しかぶり気味のクラックに右手を突っ込み、左手で左上のフレークをつかむ。しかし、力を入れるとはがれてしまいそうなフレークに思い切ったムーブが出せず、じわじわと足を上げていくしかない。もう一つカムを取りたいがバランスが悪い。一段上に乗り込みたいと体を上げた瞬間、ステミングしていた左足が滑る。あろうことか、フォールしてしまったのだ!出だしの1番が効いて2m程で止まり、胸をなでおろす。生きてた~。ビレイをしていた兄貴は寿命が縮む思いだっただろう。申し訳ない。止めていただき、ありがとうございました!
気を取り直して、ここからは安全第一。フリーはあきらめ、カムエイドで突破。上の窓到着。



10P
右にアブミトラバースして、凹隔に潜り込む。ここがまた悪い。左の壁がボロボロとはがれるので力は入れられないし、奥のクラックは予想より広く、4番しか決まらない。1つしかない4番と錆びたリングボルトでごまかしながらずり上がる。終了点手前のポケットに1番をねじ込み何とか突破できた。
 
11P
スラブを右にトラバースして左上のコーナークラックを登る。出だしのスラブは簡単だが、プロテクションはやっぱり錆さびのリングボルト。墜落荷重でボルトが吹っ飛ぶイメージが鮮明に頭に浮かぶ。恐ろしい。慎重にムーブを出し、トラバースから左上。恐ろしいが一番痺れた印象的なセクションだったかもしれない。コーナークラックは真下から見ると結構かぶって見える。クラックはフレア気味でカムも決めにくい。フリーでトライしてみたい気もしたが、無理せずカムエイドで。それでもなかなか痺れた。終了点は快適なテラスだが、ピンはやっぱり錆さびのリングボルト。仕方ないので、3つ使って支点構築。兄貴には慎重に登っていただいた。

12P
最終ピッチ。出だしはリングボルトでエイド。上部は緩めのスラブだが、支点がない。クラックもないので、カムも打てない。信用できる支点0のほぼフリーソロを兄貴が慎重に突破する。恐ろしい。フォローの私はお気楽で最後のピッチを楽しむ。いよいよ最後と思うと、もう少し登りたいような、早く緊張から解放されたいような、複雑な気持ちになった。
 
そしてついに、兄貴と二人で小積ダキの頂きに立った。兄貴と握手を交わし、ぎこちない抱擁でにやける。今だけは密を許してもらいたい。何ともいえない脱力感と安堵感と高揚感に包まれ、最高のひと時を過ごした。
 
 存分に余韻を楽しんだら、下山を開始する。この下山がまた長い。しかし、所々で登ってきた小積ダキのラインが見えて満足感をさらに大きくしてくれる。下山しながら辺りを見渡すと、そこら中におもしろそうな岩峰が乱立している。大崩山のポテンシャルはすごい。いつか自分だけのラインを引いてみたい。なんておこがましいことを考えながら足早に下山した。
 敗退から1年。ようやく小積ダキの頂きに立つことができた。こんなに素晴らしい経験をさせてくれた小積ダキと兄貴には感謝しかない。本当にありがとうございました。そして、もっともっと色んな壁登りましょう!!!
次の目標は、、、まだヒミツです。

耳川水系 上の小屋谷 遡行 2日目 【国見岳山頂へ】

源流はどこまでも穏やかに

2日目。谷の底はまだ暗いが、空は徐々に明るみ始める。そそくさと朝食を済ませ、タープをたたみ、ビバーク地を後にする。ビバーク地はちょうど国見谷、長谷、山の池谷の分岐点。今日は真ん中の長谷から国見岳山頂を目指す。

長谷の入り口は小滝の連続。冷たい朝のシャワーを浴びて目を覚ます。いくつかの小滝を超え、2段8mの美滝を水線右より直登。ゴルジュ主体の昨日とは打って変わって、急速に高度を上げていく。すぐに30mはあろうかという大滝にぶつかる。中段までは滝の左が登れそうだが、落ち口は右か?しかしこの水量を浴びながらバンドをトラバースなどできるはずもない。妄想だけ楽しんで巻きにかかる。

左岸の広葉樹林の上に茶色の岸壁がチラリと覗く。若干気になるが、うまくいけば、右岸より小さく巻けそうだ。ズルズルの斜面にバイルを打ち込み、勢いよく登っていく。しかし、程なく立派な岩壁にぶち当たる。潔く諦め、今度はズルズルの斜面を慎重に下り、気を取り直して右岸より巻く。こちらは問題無く落ち口にでた。
 
この大滝を最後に谷の傾斜は緩み、徐々に穏やかな小川へと姿を変える。長い遡行もいよいよ終盤だ。日も高くなり、まだ若い広葉樹の葉の隙間から日差しが差し込む。細くなった水流が日差しを浴びてキラキラと輝く。どこまでも優しい流れに沿って20分ほど静かに歩けば、林道に出る。

ここで重い荷物をデポし、長谷登山口からサコッシュ一つで、国見岳山頂を目指す。山頂までは広く緩やかな稜線を歩く。時折現れるブナの巨木、シャクナゲの群生、ツキヨタケ。どこまでも飽きさせない。気が付けば山頂の祠は目の前だった。

山頂から東を望む。深い脊梁の山並みの間に、上の小屋谷がくっきりと刻まれている。この秀逸な谷を、両隣に立つ2人の素晴らしい仲間と踏破できた。そのことに、この上ない幸せを感じながら下山にかかった。

P.S.下山は林道から雷坂経由。心配した藪漕ぎもほとんどなく、駐車場直前まで快適に下ったが、最後の最後、真下に車を見るも崖に阻まれ、迂回。ブッシュを分け、何とか廃屋横の車道に飛び出す。汗まみれの体を耳川の水流で清め、大分への帰路につく。さぁ次はどこに行こうか!

耳川水系 上の小屋谷 遡行 1日目 【木漏れ日のゴルジュ】

明るく開放的 美しき上の小屋ゴルジュ

日本3大秘境、椎葉村にある上の小屋谷は、九州本土に3つある日本百名谷の一つだ。耳川水系の支流で、熊本県最高峰の国見岳に突き上げる谷である。遡行距離は約10㎞に及び、九州本土ではトップクラス。水量も多いが、大滝は少なく、ゴルジュも明るく美しい。岩はホールドが豊富でフリクションもいい。へつりや泳ぎを随所に交えながら、美しい渓相を楽しめる。

スタートは、廃屋横の荒れた登山道。藪に苦戦しながら進み、2つ目の堰堤上の川原で入渓。川原はすぐ狭まり、ゴルジュになる。最初の小滝、落差さは無いが、流れが速く落ちたくない。ここは、ホールド豊富な側壁をへつって超える。
 小滝を超え、川原の浅い場所を選びながら遡上。堰堤を2つ超えると釜のある3段4mの斜滝。2段目がトユになっており、激しく水流がぶつかる。水線は通過できないので、左を小さく巻く。

しばらく川原を歩き、林道の橋をくぐると川幅は再び狭まり、浅いゴルジュとなる。ゴルジュを抜けると、明るい川原と瀞。日差しを浴びてスカイブルーに輝く水の中をジャブジャブと進む。
 
スゲ谷の出合いを超え、美しい川原を歩く。徐々に巨石が増える。石伝いに連続する小滝を超える。ところどころ、ゴルジュ状の地形になるが、側壁は数メートル程で、日差しが差し込み渓相は明るい。
 
支流の出合いは落差のある滝がみられるが、水量の多い本谷は、小滝と釜、淵の連続である。木々の木漏れ日が明るく谷を照らし、美しい。浅いゴルジュをしばらく進むと釜を持つ2段5mの滝。水量が豊富で釜の流れは侮れない。左岸を巻く。3m、2条3mと小滝が続く。谷が右に大きく曲がったところで、釜を持つ立派な5m滝。これは左岸をへつり、水線際を気持ちよく通過できる。滝頭は磨かれ黒光りする粘板岩の間を急流が蛇行する。恐ろしくも美しい自然の造形美だ。

ゴルジュを抜けると広葉樹林と明るい川原。気持ち良く歩く。
 
しかしすぐに谷は狭まり再びゴルジュに。へつりを楽しみながら遡上すると、美しい釜を持つ2段4m滝。釜を泳ぎ、水線際の右岸を直上すると一旦ゴルジュを抜ける。が、すぐにまた浅いゴルジュ。狭まった側壁の間を階段状に流れる急流。水際に差し込む木漏れ日。その美しさには思わずため息がでた。

しばらくは小滝と釜が繰り返す。どの釜も水をたっぷりと湛え、木漏れ日にキラキラと輝く。美しい瀞と続く斜滝3mを左岸のスラブ沿いに超える。しばらく行くと、谷は大きく蛇行し、久しぶりに大きな滝が見えてくる。ここは、五勇山へと続く支流との2俣だ。2俣を過ぎると、しばらくは単調な歩きとなる。両岸からは幾筋も支流が滝となって流れ込む。水量はまだまだ豊富だ。いくつか釜をへつって超え、ゴルジュを通過する。

すると、ここまで小さな滝ばかりだった谷に、突如として幅広の15m大滝が現れる。水量に圧倒され、直登はあきらめる。巻きにも少々てこずる。

谷に戻り、小国見谷との出会いを超えると続いて幅広9m。これは水線の右側を直登。ホールドは豊富だ。

ゴツゴツしたゴルジュと巨石帯を過ぎる。「そろそろテン場を」と思った矢先、1日目最大の30m大滝が豪快に水を吐き出す。しばらく眺めるが落ち口の突破ができそうもないので、左岸の支流から巻いた。巻き終えれば、徐々に川原が広がり本日の行程は終了。

快適なビバーク地で星空を見上げ、冷えたビールとイワナ。これだから沢はたまらない。

~2日目 【国見岳山頂へ】 へつづく~

 
 
<アルバム>