登攀チーム ひも野郎

傾山二つ坊主南壁を登るために集まった変わり者たちの記録

宝剣岳 西面 第2尾根

 

剣岳 西面 第2尾根 2022年4月7日-10日 メンバー 片山 斉藤

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岩と雪の壁を登ってみたい!そんな思いに駆られて、あれやこれやと画策してきたのだが、なかなか実践することができなかった。冬壁をやれるだけの時間がないというのは言い訳で、実際には、未知のフィールドに行くことが不安だっただけなのだ。


しかし、「経験豊富な人に連れて行ってもらう」なんて、どっかの本で読んだような、都合のいい話を待っていてもチャンスは永遠に訪れない。やりたいなら、自分でやるしかないんだ。

 

そう腹をくくり、まずは目標のルートを定めることにした。
条件① 移動を含め確保できる最大日数は3日間。しかも4月
条件② 岩と雪のミックス壁でそれなりにしっかり登攀ができること

 

この難条件を満たすベストなエリアは宝剣岳しかあるまい。宝剣岳の岩稜ルートを調べていくと一つのルートが目に留まった。それが【西面 第2尾根】。ウィンタークライマーズミーティングの記事では、「3ピッチと短いが快適なミックスクライミングでピークへ抜ける好ルート」と書かれている。条件にピッタリではないか!さらにネットで調べても記録は2つしか見当たらず、俄然興味が湧いてきた。目標は決まった。

 

次は登るため、いや無事帰るための準備だ。何せ冬壁どころか、まともな雪山にすらほとんど登ったことがないのだ。似たような登攀の記録を読み漁り、自分が追い詰められそうな状況を思いつく限り想定し、その対処法を練っては、子供が寝静まった時間に夜な夜なシミュレーション。思いつく限りのトレーニングも行った。初めての場所や初めての事をやるときには、この想定をどこまで深められるかが大事なポイントだ。

f:id:himoyaro:20221017034740j:imageすでに春めいた九州の岩場でドラツートレーニン

天候や雪崩についての不安は最後までぬぐえなかったが、天気予報と過去の記録を見比べては中止のタイミングを何度も想像した。もし想像と違う状況がでてきたなら、その時は潔く撤退しよう。なんせこちらは素人なのだ。笑われても生きていればよい

 

装備は不安をぬぐうため、持ちすぎとは思いつつもありとあらゆるプロテクションを動員。そのせいで、たった一泊の行程で30kgオーバーの重装備になってしまった。さすがにやりすぎかと、ハーケンを2枚減らす。(笑)まぁアプローチは短いし、歩荷と思って頑張ろう。

当日、心配した天候は高気圧に覆われ、この上ないコンディション。冬壁というにはあまりに穏やかすぎるのが少し気になるが、まぁそれも初めてなので良しとする。

 

 

前日仕事終わりから夜通し車を走らせ、8日昼過ぎに千畳敷に到着。すぐに宝剣山荘へ歩荷して山荘裏にこっそりとテントを張らせてもらう。そのまま取り付きのB沢下降点を確認。ノーロープでも行けそうだったが、そこは素人2人。念のため、ロープを使って下降することにし、手順を確認してテントへ戻る。のんびりと夕日を眺め、飯を食い、明日へ備える。天気は申し分ない。中止の理由は見当たらない。

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2日目も快晴。それでも早朝の西壁はそれなりに強い風が吹いていた。前日打ち合わせた通りにB沢を下降し、取り付きを探す。しかし、写真で見た取り付きが見つからず、右往左往した。やむをえず、側壁のガリーから登攀を開始した。

 

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壁の状況は快適そのもの。雪は少なめなでドラツーなセクションが多かったが、カムはがっちり効く。ところどころ難しいところもあったが、恐怖感は無かった。予想通りというか、持ってきたプロテクションの大半は重りと化していた。

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2ピッチ目の短いが美しいフィンガークラックは一回だけフリートライしてみたが、難しかったので、アブミで突破。

 

3ピッチ目は爽快なナイフリッジから無事に宝剣岳のピークへ抜けた。山頂からの景色は遠く北アルプスまで見渡せ「素晴らしい」の一言だった。

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前評判通り、短いがミックス壁のエッセンスが散りばめられた楽しいルートだった。ピークへ着くころには風もなくなり、快適そのもの。今回はコンディションが良すぎて、これを冬季登攀と呼ぶのは躊躇われる。

 

しかしながら、準備段階から登攀開始までの様々な不安を乗り越えて、壁に取り付けたことで、一つ大きな壁を超えられたように思う。好天はそのご褒美ということで許していただきたい。

 

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帰り際に帝釈峡に立ち寄る。雪から岩へ!